なぜガザは戦場になるのか

イスラエル・パレスチナ問題の専門家である高橋和夫氏が、2023年10月7月のハマスによるイスラエル攻撃について、その歴史的な経緯も含めて解説した本です。
基本的な論調は、ガザ地区の人々はイスラエルに封鎖されて生活の安全と自由を奪われて絶望感しかなく、それが爆発したのが10.7事件だということです。

ジャーナリストの飯山陽氏は、高橋和夫氏の説明は、絶望感がテロを誘発したというロジックで、ハマスのテロ行為をイスラエルの責任に転嫁している、と言っています。

私は本書と飯山陽氏の著書を読んで、両論比較しましたが、やはりハマスのテロ行為を相対化するような本書の論調には同意できません。本書はパレスチナ問題の背景にある、中東諸国やアメリカなどの利害を詳しく解説していますが、一貫してイスラエルに対しては批判的です。イスラム教徒に対して差別的扱い、即ちアパルトヘイト政策を行っていると書いていますが、イスラエル国内の約20%のアラブ人には選挙権もあるし、決してそうではなさそうです。

私はイスラエルや中東に行ったことがないので、実感をもって書くことはできません。ただ、テロ行為を相対化して、「しかたがない」とする論調には反対です。それは、安倍元首相を暗殺した山上容疑者のテロ行為に対して、「山上容疑者の行為は家庭連合の被害が原因だから仕方ない」、という世論ができていることを、目の当たりにしているからです。

本書については、中東紛争の時系列を把握するのには便利ですが、その背景にあるものを見極めなければならない、と思いました。